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大阪地方裁判所 昭和45年(行ウ)101号 判決

原告 久保正清

右訴訟代理人弁護士 江村重蔵

被告 大阪市長大島靖

右指定代理人 森三郎

〈ほか三名〉

主文

被告が原告に対し昭和四一年五月二七日附をもってした土地区画整理法に基づく別紙物件目録(三)記載の土地についての仮換地指定処分を取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の、その一を被告の各負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

原告

1  被告が原告に対し昭和四一年五月二七日附をもってした土地区画整理法に基づく別紙物件目録(一)ないし(三)記載の各土地についての仮換地指定処分を取消す。――

2  訴訟費用は被告の負担とする。

被告

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二原告の請求原因

一  仮換地指定処分

被告は、大阪都市計画事業新大阪駅周辺土地区画整理事業(以下、本件事業という)の施行者として、昭和四一年五月二七日附で、原告所有の、別紙物件目録(一)、(イ)および(ロ)記載の土地(以下、(一)の土地という)および同目録(二)記載の土地(以下、(二)の土地という)に対し同目録(四)記載の土地(以下、(四)の土地という)を、同目録(三)記載の土地(以下、(三)の土地という)に対し同目録(五)記載の土地(以下、(五)の土地という)をそれぞれ仮換地として指定した(以下、本件仮換地指定処分という)。

二  本件仮換地指定処分の違法

本件仮換地指定処分は次に述べるとおり、著しく照応を欠いた違法な処分である。

(一)  本件各従前地の状況

1 (一)の土地について

(一)の土地は、合わせて略々真四角で計二四九・〇八m2の広さがあり、本件事業の行なわれている新大阪駅周辺地域において一番の繁華街となる新御堂筋の東側に存在し、また新御堂筋の南行き道路に通じる南北に走る道路にその表口が約一六mにわたって接し、さらに大阪市営高速鉄道御堂筋西中島南方駅地下鉄降口に近接していた。

2 (二)の土地について

(二)の土地は、三五六・三六m2の広さがあり、新御堂筋の西側下の道路にその表口(東側)が一二・五mにわたって接し、奥行が二九・五mでその裏口だけが幅員四mの道路を隔てて墓地に面していたとはいえ、前記地下鉄駅降口の西前にあった。

3 (三)の土地について

(三)の土地は、三四・六七m2の広さがあり、(一)の土地と同じく新御堂筋の東側に存在し、しかもその東前を南北に走る道路は北端が新大阪駅の正面広場に直通し、南端が阪急京都線南方駅前の繁華街を突き貫けて同駅に突き当り、その附近は既に繁華街となっていた。

(二)  本件各仮換地の状況

1 (四)の土地について

右仮換地は、減歩率が三〇・六%で、面積が四二〇m2であり、(一)の土地から遠く離れて新御堂筋の西側に存在し、その南および東で道路に面する角地とはいえ、新御堂筋西側下の道路に接する幅は極めて狭く、その長大な南面表側全部が道路を隔てて墓地に面し、またその形は奥の方で鍵の手に曲がっており、面積が大きい割には地価はかなり低い。しかもその三分の一の面積が墓地跡からなっている。

2 (五)の土地について

右仮換地は、減歩率が一九・四%で、広さが二八m2であり、(三)の土地から一〇〇m程東方にあり、角地ではあるがその南北に走る道路は北端において新大阪駅の広場に突き当らず、南端においても阪急京都線南方駅の遙か東方の線路に突き当っており、東海道線の直ぐ近くであって夜間はその騒音になやまされる道路であり、しかもその南北の道路幅は一六mあって、将来商店街になることは絶対に期待できない。

(三)  右各仮換地指定処分の違法

1 (一)および(二)の各土地は、それぞれ十分な広さがあるから、それぞれについて仮換地を指定しても過少な面積の土地とはならなかったのに、これらについて一括して(四)の土地を仮換地として指定した処分は違法である。

しかも、右仮換地は、奥の方が鍵の手に曲がっていて使用上極めて不便であり、またその一部には墓地跡を含んでおり、本件事業において本件の外にこの様な事例はない。さらに、右仮換地指定について「換地設計方針」所定の換地率計算方法中の(3)の奥行修正の計算において2とすべきところを1としたため、右仮換地の面積が小さくなっている。

2 (一)の土地についての仮換地指定処分は、特等地を二等地へ格下げしたも同様であって許されず、「原則として原地換地とする。」との「換地設計方針」にも反し、また(一)の土地と同一または附近区画内にあって同一条件の下にあったところの阪神土地興業株式会社、堂島株式会社、徐鐘準および入江久雄の各従前地については、いずれも従前地の近くに仮換地が指定され、減歩率も原告のそれより遙かに低いことと比較すると、原告にとって明らかに不利である。

3 (二)の土地についての仮換地指定処分は、(二)の土地と同一区画内で南北に並んで殆んど同一条件にあったところの水野春子、中原静恵および田中熊一の各従前地の減歩率と比較すると、原告にとって明らかに不利である。

4 (三)の土地についての仮換地指定処分は、特一等地を三等地に格下げしたものであって許されず、「原則として原地換地とする。」、「(従前地の面積が)三三平方米(一〇坪)以上の土地については最少換地面積を三三平方米(一〇坪)とする。」との「換地設計方針」にも反し、また真鍋朝枝の従前地について増歩の仮換地指定がされていることと比較して、原告にとって甚しく不利である。

5 原告は、(一)の土地において息子の一人に家具小売店を開業させる計画を立てていたのであり、(二)の土地において既に新建材の商売を始め、将来息子の一人に同様の営業をさせる計画を有していたのであり、(三)の土地において息子の一人に洋品雑貨販売および洋裁店を開業させる計画を立てていたが、本件仮換地指定処分によりこれらの計画は壊滅した。

三  よって、本件仮換地指定処分の取消を求める。

第三被告の答弁および主張

一  請求の原因一は認めるが、同二は争う。

二  本件事業における従前地についての照応考慮の基準時は、土地区画整理法六九条九項の規定による事業計画決定の公告がなされた昭和三七年九月二八日である。

三  (一)および(二)の各土地に対する仮換地指定処分について

1  大阪市営高速鉄道御堂筋線西中島南方駅および新御堂筋道路下の道路はいずれも本件事業との関連で設置されたものであるから、これらの公共施設の存在を前提として従前地である(一)および(二)の各土地の立地条件を評価するのは誤りである。

2  (一)の土地は、前記基準時においてほぼ方形の宅地を構成していたが、何ら公道に接していない盲地であった。

3  (二)の土地は、前記基準時においてその東側で幅員約六mの道路に、その西側で幅員約四mの道路にそれぞれ約一三mにわたり接していた長方形の土地であった。

4  (一)および(二)の各土地に対する仮換地((四)の土地)は、その東側において本件事業の施行により開設された幅員約六〇mの都市計画街路御堂筋線に、その南側において幅員約一六mの道路に直接面する角地であり、かつ前記御堂筋線西中島南方駅出入口からわずか三五mの距離に位置しているのであり、従前地である(一)および(二)の各土地に比較しても遙かにその立地条件および利用条件は向上している。

5  (一)および(二)の各土地は、いずれも全部または大部分が幅員約六〇mの御堂筋線の敷地となったため、原位置での仮換地指定が不可能となり、合筆仮換地となったが、(四)の土地は従前地より約三〇mないし六〇m離れているに過ぎない。

6  (四)の土地は、鍵形となってはいるが、面積が広いから鍵形部分のみでも十分独立して使用しうるものであり、もともとその従前地が二ヵ所に離れて位置していたことを考慮すると、鍵形となっているからといって違法な仮換地ということはできない。

7  (四)の土地は、その一部が墓地跡であることは事実だが、本件事業において墓地跡が仮換地に指定された例が他にもあり、また既に完全に整地され、宅地として使用するについて何ら支障のない土地である。

8  (四)の土地の長い表側の一部が幅員一六mの道路をはさんで墓地に面しているけれども、もともと(二)の土地は、前記基準時にはその西側部分において幅員約四mの道路をはさんで墓地に面していた。

以上の従前地および仮換地の諸条件を客観的、総合的に判断して減歩率等が定められたものであり、原告に対する右仮換地指定処分が他の者に比較して不利なものであるというわけではない。したがって、右仮換地指定処分には違法な点は存しない。

四  (三)の土地に対する仮換地指定処分について

(三)の土地は、前記基準時においてその東側が約四mにわたって幅員約六mの道路に接する矩形の土地であったが、これに対する仮換地((五)の土地)は、従前地より約一〇〇m程東に指定されているとはいえ、北側が幅員六mの道路に、東側が幅員一六mの道路にそれぞれ接する角地である。

右の従前地および仮換地の諸条件を客観的、総合的に判断して減歩率等が定められたものであり、原告に対する右仮換地指定処分が他の者に比較して不利なものであるというわけではない。したがって、右仮換地指定処分には違法な点は存しない。

第四原告の反論

一  本件事業における従前地についての照応考慮の基準時について

(一)  本件事業計画が決定されたのは、昭和四一年一月の最初の実施計画決定の時と解すべきであり、この時を右照応考慮の基準時と解すべきである。

(二)  右主張が容れられないとするならば、行政処分は処分当時の事情を基準とすべきであるところ、仮換地指定は行政処分であるから、昭和四一年五月一三日の「仮換地指定案審議会答申」の直前の時を右照応考慮の基準時とすべきである。

(三)  仮に右各主張が容れられないとするならば、「換地設計方針」および「従前地積査定基準」が大阪市において最終的に決定された昭和四〇年一一月一〇日を右照応考慮の基準時とすべきである。

二  (一)の土地は盲地ではなかった。

即ち、昭和二四、五年頃(一)の土地上に木造平家建の大阪府営住宅が建築され、昭和三四年に右土地建物が山田巌に払下げられ、その後原告がこれを買取ったものであるが、原告は、(一)の土地から西方の公道へ通行することができ、同時に東隣が右土地同様かつて大阪府営住宅であったので、その敷地のうちの南部を通って東方道路へ出る権利を有していた。また、(一)の土地の西側に接する土地は、昭和二一年五月二二日以来旧および新「道路法」上新御堂筋道路の予定地となっていたもので、昭和三四年以後は事実上不特定多数の人や自動車の自由通行に供されており、昭和三九年九月初以降は完全に市道となっている。

第五証拠関係《省略》

理由

一  請求の原因一記載の事実については当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、(一)ないし(五)の各土地の位置関係は別紙図面(一)のとおりであることが認められる。

二  従前地についての照応考慮の基準時について

土地区画整理事業における従前地と仮換地との照応考慮の基準時は、従前地については原則として事業の開始時と解すべきで、都道府県知事(あるいは指定都市の長)が施行者である場合には事業計画が決定され、これが公告された時(土地区画整理法六九条九項)と解するのが相当である。けだし、照応の原則は土地区画整理事業施行地区内の関係権利者間の公平をはかるために設けられたものであるところ、事業計画の決定公告によって土地区画整理事業の施行が確定し、かつそのことが一般に知らされるのであるから、右の時点をもって従前地についての照応考慮の基準時とするのが、従前地所有者らの間の公平を保つうえから最も適していると考えられるからである。

これを本件についてみると、《証拠省略》によれば、本件事業の事業計画決定の公告された昭和三七年九月二八日をその基準時とすべきである。

三  (一)および(二)の各土地と(四)の土地の照応について

《証拠省略》によれば

(1)  昭和三五年一月二一日新幹線路線および新大阪駅位置決定がなされたことに伴って、御堂筋をはじめ公共施設を整備し、宅地利用を増進して、新大阪駅周辺の副都心化をはかるため、昭和三六年三月都市計画法に基づく都市計画区域の決定がなされ、同年一一月には都市計画事業が決定されたことにより、その関連事業として本件事業が開始されるに至ったが、本件事業計画の内容として都市計画街路御堂筋線の設置ならびにその用地の中央部分を高速鉄道第一号線が通ることとなっていた。

(2)  昭和三八年六月から本件事業として高速鉄道第一号線および連絡道路の西中島地区敷地の確保(買収)が開始され、昭和三九年九月には高速鉄道第一号線の梅田と新大阪駅間が、同年一〇月一日には東海道新幹線の東京と新大阪駅間がそれぞれ開通した。そして、右高速鉄道は、(一)および(二)の各土地附近において高架式となっており、その両側に幅員各六mの暫定道路が本件事業費で設けられ、後に右高速鉄道の両脇に高架式の新御堂筋などの幹線道路も設けられた。

(3)  前記照応考慮の基準時頃の(一)および(二)の各土地ならびに附近の宅地、道路等の位置関係の詳細は別紙図面(二)記載のとおりである(ただし、(一)の土地は三四四の七、三四四の一四と、(二)の土地は七の二二と表示されている部分である。)。

(4)  別紙図面(二)に示される(一)の土地を含む一区画のうち、三四四番の一(A、B、Cの各部分)のA部分を除くその余の部分はもと大阪府営住宅の敷地であったが、昭和三四年頃地上の建物と共に各居住者に払下げられ、原告はその頃(一)の土地を地上建物と共に転買した。そして、前記照応考慮の基準時頃の(一)の土地附近の状況についてみると、A部分はかねてより道路予定地とされてはいたが、現況はそのうちの北の部分が広原で草が深く、南の部分が児童の遊び場となっていた。BおよびCの各部分と三四四番の二〇はその両側に側溝が設けられ、人の通行の用に供せられており、事実上道路の状態となっていた。したがって、かつて大阪府営住宅の敷地であった右各土地のうち、結果として原告所有の(一)の土地のみが盲地となり、その余の阪神興業株式会社(三四四番の八、九、一二、一三、三四八番、三四九番、三五一番)、堂島株式会社(三四四番の六、一五)、徐鐘準(三四四番の一〇、一一)所有の各従前地はいずれも(ただし、阪神興業株式会社の三四四番の九、一三については同社所有の三四四番の一二と一体として見るかぎり)盲地とはならなかった。

(5)  別紙図面(二)に示される(二)の土地およびその一区画の土地についてみると、原告所有の(二)の土地は、間口一二・五m、奥行二九・五mのほぼ矩形の土地で、東側で幅員六mの道路に、西側で幅員四mの道路に接し、その幅員四mの道路の西側が墓地となっていた。(二)の土地と比較すると、水野春子所有の従前地は角地であってより好い位置にあったが、中原静恵および田中熊一所有の各従前地はそれぞれ(二)の土地と似たような状況であった。

(6)  (一)および(二)の各土地に対する仮換地((四)の土地)、前記水野、中原、田中所有の各従前地に対する各仮換地ならびに附近の道路の状況は別紙図面(三)記載のとおりである(ただし、(四)の土地は久保正清と表示した部分で、その従前地は緑で囲んだ部分二ヵ所である。)。

なお、(一)の土地が盲地であったため、(四)の土地の減歩率は三〇・六%であり、平均減歩率二二・二%より大きい。

(7)  (四)の土地は、東側において本件事業により開設された幅員約六〇mの幹線道路である都市計画街路御堂筋に、南側において幅員一六mの道路にそれぞれ面した角地であり、しかも本件事業と関連して設置された大阪市営高速鉄道第一号線西中島南方駅に近接した絶好の位置にある。

(8)  (四)の土地は、鍵形の地形ではあるが、その各鍵形部分だけでも独立して使用できる十分な広さがある。

ところで、(一)および(二)の各土地について(四)の土地が一括して仮換地に指定され、鍵形の地形となった経緯は、都市計画街路御堂筋線等の新設に伴い、(一)および(二)の各土地の大部分がその敷地となり、またその道路幅が広いため、それぞれについて飛換地を指定せざるをえなくなったことと所有者が偶々同一であったことにある。

(9)  (二)の土地は、もともと墓地近辺に存していたものであり、これに対する仮換地((四)の土地)は、その一部に墓地跡が含まれているとはいえ、整地されていて宅地として使用するには何ら支障がなく、また墓地とは幅員一六mの道路を隔てて面してはいるが、(二)の土地と類似した中原、田中所有の各従前地に対する各仮換地は、いずれも直接墓地と隣接している状況である。

(10)  (一)および(二)の各土地に対し(四)の土地を仮換地に指定するについては、被告が設けた「換地設計方針」に基づきその地積等が定められ、またその他の者の従前地についても右「換地設計方針」に基づき仮換地の地積等が定められた。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

右認定の各事実によれば、(一)および(二)の各土地の仮換地として(四)の土地を指定した処分は、むしろ原告にとって有利な処分であったといえるのであり、照応を欠いた違法な処分といえないことは明らかである。

右の点に関し、原告は、右仮換地指定処分の違法なる旨主張し、その理由として、(1)(一)および(二)の各土地は新大阪駅、高速鉄道第一号線および新御堂筋等の公共施設の存在を前提として評価されるべきこと、(2)原告が他の者と比較して不利に取扱われたこと、(3)右処分が「換地設計方針」に反してなされたこと、(4)(一)および(二)の各土地で息子らにそれぞれ商売をさせる計画を有していたが、右計画が壊滅したことを挙げている。

しかしながら、(1)主張にかかる公共施設のうち高速鉄道第一号線および新御堂筋線は、前記照応考慮の基準時以後本件事業において、あるいはこれと密接な関連の下に設けられたことは前認定のとおりであるから、これらの存在を前提として(一)および(二)の各土地を評価すべきではなく、また新大阪駅との距離その他の位置関係は(一)および(二)の土地と(四)の土地とでは殆んど差異はないから、この点につき照応に欠けるところはなく、(2)原告が他の者と比較して不利に取扱われたとして、都市計画街路御堂筋線に接し、その東側に存する各仮換地を主に指摘し、これに副う証拠を提出しているが、右各仮換地はいずれも本件事業施行地区内で最も恵まれた土地であって、(四)の土地との比較の対象をこれらの土地に限らなければならない根拠もなく、(3)右処分が「換地設計方針」に反していることを窺うに足りる証拠はなく、(4)原告が(一)および(二)の各土地で息子らに商売をさせる計画を有していたこと自体は、仮換地の指定にあたって考慮されるべき事柄ではない。

したがって、原告の右主張を容れることはできない。

四  (三)の土地と(五)の土地の照応等について

高速鉄道第一号線、新御堂筋等の公共施設は、前記照応考慮の基準時以降において、本件事業としてあるいはこれと密接な関連の下に設けられたことは前叙のとおりであるから、これらの公共施設の存在を前提として(三)の土地を評価すべきではない(なお、新大阪駅からの距離その他の位置関係は、(三)の土地と(五)の土地とでは殆んど差異はないから、この点につき照応に欠けるところはない。)。この見地に立って、(三)の土地についての仮換地指定処分をみると、《証拠省略》によれば、

(1)  前記照応考慮の基準時頃の(三)の土地ならびに附近の状況をみると、(三)の土地は、その間口(東側)が約五mで、東側でのみ南北に真直ぐ走る幅員八mの道路に接した面積三四・六七mの矩形の土地であった。そして、南北に走る右道路は約三〇〇m南で阪急京都線南方駅の東端部分に突当っており、同駅周辺にまばらに店舗が散在するのみで、店舗の存在する範囲は同駅から遠くても一〇〇m位までであった。

(2)  (五)の土地は、(三)の土地より約一〇〇m東にあり、東海道線の敷地より約六〇m西にあるが、その東側で本件事業施行地区内の南北に走る幅員一六mの準幹線道路に接し、その北側で東西に走る幅員六mの道路に接する面積二八m2の角地であり、従前地と比較した場合立地条件はかなり優れている。

(3)  (三)の土地についての減歩率は、一七%(ただし、大阪市西中島土地区画整理組合による事業施行地と同じく三%の加算がなされている。)が適用され、端数が切捨てられた結果実質約一九%となっているが、それでも平均減歩率二二・二%より低い。

(4)  (三)の土地附近で都市計画街路である御堂筋線(幅員八〇m)、十三吹田線(幅員三〇m)が新設されるため、(三)の土地について飛換地を指定せざるをえなくなり、また(三)の土地附近の他の従前地についても、かなりの数が(三)の土地の仮換地((五)の土地)と同じブロックへ仮換地指定(飛換地)されている。

(5)  本件土地区画整理審議会の同意をえて被告が定めた本件事業の「換地設計方針」では、「原則として原地換地とする。」(第1、1、)、「この方針によりがたい場合は、特別の措置をするものとする。」(第1、3)、「三三平方米(一〇坪)以上の土地についての最少換地面積は三三平方米(一〇坪)とする。」(第3、3―1、(2)、②の第二項)とされている。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

右認定の各事実によれば、(三)の土地の仮換地として(五)の土地を指定した処分は、照応の観点からはむしろ原告にとって有利な処分であったということができるが(なお、右の点に関して、原告は、(三)の土地で息子に商売をさせる計画を有していたところ、その計画が壊滅したとして、これを右処分の取消を求める理由の一つとしているが、これがその理由とならぬことは前記三で述べたとおりである。)、被告が定めた過少宅地の基準となる地積に関する「換地設計方針」の前示規定に何ら特段の事情もないのに反していることは明らかである。

五  そこで、前記過少宅地の基準となる地積に関する規定に反してなされた(三)の土地に対する仮換地指定処分の効力について検討する。

右規定は、本件事業の施行者である被告において、災害を防止し、衛生の向上を図るため、宅地の地積の規模を適正にする特別な必要があると認め、本件土地区画整理審議会の同意をえて定めたものであり(土地区画整理法九八条二項、九一条一項、二項、同法施行令五七条三項四号)、照応の原則の例外をなすものである。

ところで、土地区画整理法九一条一項、二項の規定の仕方からみて、施行者が過少宅地の基準となる地積を定めるか否かはその裁量にかかっていることは明らかであるが、一旦土地区画整理審議会の同意をえてこれを定めたからには、何ら特段の事情が存しないのに施行者の一方的な都合で右規定に反する仮換地指定をすることは許されないと解するのが相当である。けだし、照応の原則とは直接のかかわりはないが、かかる仮換地指定を許容するならば、従前地所有者らの間の公平を害する虞れが大きいからである。

そうすると、何ら特段の事情が存しないのに過少宅地の基準となる地積の規定に反してなされた(三)の土地についての仮換地指定処分は違法であり、取消を免れない。

六  以上の次第で、原告の請求は、(三)の土地についての仮換地指定処分の取消を求める部分に限り正当であるからこれを認容することとし、その余の部分は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 荻田健治郎 裁判官 井深泰夫 市川正巳)

〈以下省略〉

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